※ネットの記事を抜粋
栄養・健康情報に振り回されるな
ここ数年来、未曾有ともいえる健康食ブームが席巻している。
当初私は、これは的外れの医療や、効き目のない薬に愛想をつかし、国民が病気予防の大切さを自覚しはじめたためではないかと思っていたのですが、そうではなかった。
ブームの火付け役がいたのだ。
1980年代後半、心臓病やがんの死亡率が急上昇しつつあったアメリカは、『ヘルシーピープル2000』という政府主導の一大健康キャンペーンを旗揚げた。そして栄養学を医学教育に取り入れたり、その他、予防医学を促進するための法律の制定や整備をおこなった。
当時日本でも、高齢化社会の到来や、生活習慣病の急増によって、国民医療費が破綻の危機に面したことから、やはり国民の健康問題に無関心でいられなくなり、政府が「栄養摂取」という観念を国民に広めようとしたのがことの発端だった。
その具体案がいろいろ検討され、ついに2000年に、『健康国民21』という政策が発表されたことは周知のとおり。こうしてアメリカより10年以上も遅れて、アメリカと同じようなコンセプト、といってもそれを皮相的にまねたものを国民に”強要”することになったのだ。
いわば政府体制側の音頭とりによってすべてが始まったわけで、本当の意味で国民のニーズを反映するものではない。また発信される情報は、西洋医学的な分割思考型になっているのが特徴的だ。
そして気がついてみると、さまざまな情報が乱れ飛び、それらは医学界だけではなく、大手食品メーカーや、大企業の利害を考慮に入れて巧妙に操作された、しかも歪曲されたものになってしまったのだ。
表向きには栄養学という名でカムフラージュしていても、その中身をよく検討してみますと、単なる食品分析学にすぎないことは明らか。当然そこには、健康維持や、病気予防に直結する基本理念など毛頭ない。端的にいって、栄養成分とその効果だけに絞って食品を分析しているだけで、食物と体との相関関係をまったく無視したものになっている。そんなものは、とうてい栄養学と呼べるような代物ではないのだ。
食品はその生産地や栽培方法によって栄養成分が異なるし、食べる季節や人の体質によっても効果はまちまち。たとえば山形と埼玉では、同じ大根でも成分値が違ったり、有機農法と化学農法という点でも、その違いには大差がある。地域によっては、ほうれん草の鉄分がゼロという場合もあるのだ。
農水省や厚生労働省はこういった問題に無頓着で、公表されている統計や分析データは、いい加減で信頼できるものではない。健康食品の製造・販売にかんしていえば、法律が未整備のため野放し状態で、間違った理論や製法によってつくられる商品が、すでに被害を生みはじめている。
陰性体質の人が冬に青汁ジュースを飲んで体調を崩したり、長く続けたために病気になってしまったという実害が出ているのだ。また、天然素材をうたい文句にしていても、根拠の疑わしい商品が数多く出回っている。
テレビの健康番組などで、栄養学博士といわれる先生たちが、「魚にはEPAやDHAが、野菜にはこれこれのビタミンやミネラルが、果物にはエストロゲンやポリフェノールが豊富に含まれている」などといって、知識の切り売りのような講義をやっているが、そんな知識はただ混乱を招くだけで、栄養学とは程遠い。
食品には元来、それぞれ特有の健康効果があるもので、それらを分析して優劣をつけたり、栄養素を個別に強調したところで、実質的な効用があるわけではない。アロエ、にんにく、フコイダン、アガリクスなども、それぞれが単品で病気の原因を取り除くものではないのだ。
ある番組で、ココアの健康効果はすごいと放映したため、それを真に受けた主婦たちが、バケツ一杯のココアを買ったというのですから、もう何をかいわんや。
栄養問題を取り上げるなら、消化機能や腸内環境などをしっかりその中心にすえた、もっと本質的な観点から論じるべきではないだろうか。しかし、それは腸造血を知らなければできない相談で、それを知らないために、話がすべてピンボケになってしまうのだ。
とにかく、「あれがいい、これがいい」という単純な『足し算的発想』に終始しているわけで、まるで小学生なみの低レベルには呆れるばかり。所詮は娯楽番組だからといって、済まされる問題ではない。